堀へ
「本場のモンゴル相撲を見せてやるッス!」
と言い残しこの町を飛び出した堀よ。
勢いに負け盛大に送り出してやった我々ではあったが、
堀はモンゴルについても相撲についても全くの無知のはずで、
そもそもどこの誰ににその本場のモンゴル相撲を見せつけに行ったのか。
軽率な行動をとってしまったのは先輩として恥ずべきことで、
引き止めるべきだったのでは、と今は思うが、
あの時の堀の決意と笑顔を見て、誰が引き止めることが出来ようか。
今頃、どこで、誰に、本場の相撲を見せつけているのか分からないが、
堀よ、お前はお前のモンゴル相撲で、がん……がんばって?
モンゴルの、ほら、本場の。アレを。
ドーンと見せつけてやってくれ。
我々は皆、堀のことを応援している。
病室
病室のベッドから自力で起き上がることすらままならない俺に、気休めのつもりか何なのか、妻が持ってきたのは大きなメスゴリラのぬいぐるみ。ぬいぐるみにオスもメスもないが、頭部にピンク色のリボンが縫いつけてあるので、これはメスなのだろう。昔から妻は要領が悪いというのか、困った、いわゆるテンパった状態にあるとついよく分からないアクションを起こしてしまうのだが、このぬいぐるみも、退屈しているであろう俺への彼女なりのせいいっぱいの気遣いなのだろう。しかしなぜ入院患者にゴリラを。そもそも大の大人にぬいぐるみというのもなんだが、妻のやさしい気遣いをうれしく思い、枕元にこれを置いている。しかしなにしろ不自然に大きい。幼稚園児ほどの丈はあるだろうか。無駄にスペースを占有するメスゴリラ。愛嬌のある表情に看護婦も「かわいいぬいぐるみですねぇ」などと笑ってはいるが、明かに診察の邪魔ではあるし、検診のつど床に下ろすなど手間もかかる。就寝時も寝返りをうつたびに毛が当たりうっとうしい。
しばらく気付かなかったのだが、メスゴリラの背中にはファスナーがついており、おそらくここから芯になっているウレタンや真綿を取り出したりするのだろう。が、何気なくファスナーを開け中を覗くとそこにあったのはウレタンや真綿ではなく大量の( )
ふかふか
「ほう、これが」
「ああ」
「確かに」
「ふかふかだろう」
「ああ、ふかふかだ。思っていた以上にふかふかだ」
「思っていた以上にか」
「ああ、すごくふかふかだ。でも、噛むのだろう」
「噛むんだ。ちょっと気を抜いた隙にがぶー、さ」
「危ないな」
「ああ、すごく危ないんだ」
「でも、ふかふかだな」
「そうなんだよ」
「ピンクで」
「噛むんだよ」
「危ないな」
「でも、ふかふかだぜ」
「いくらだ」
「またそんな話か。お前いつだってそんな」
「欲しいんだよ」
「でも、噛むんだぜ」
「だってお前、ふかふかだろう」
「なあ」
「なあ」
爺婆
昔々あるところにお爺さんとお婆さんがおったそうだが今回それはどうでも良い。私は今大変腹立たしい気持ちでいっぱいであり、今日はそのことについて話したい。昨日の昼頃、私はいつも利用している地下鉄に乗り込むとそこにお爺さんとお婆さんがおったそうだがそれは今回の話とは関係ない。昼間だというのにそこそこに混み合った車内には効きすぎるぐらい冷房が効いており、スーツ姿の私にとっては有り難い話なのだが、薄手のシャツを羽織っただけの女性などにはこれでは寒いぐらいではないのか、お爺さんとお婆さんには、いや、今回それはどうでも良いのだが、乗車中ふと目をやると、座席にお爺さんとお婆、おい。どけ。お前らは今回関係ないってば。座席に座る女性の足元に不審な角度でバッグを向ける男がおり、ははあ、これは間違いなく盗撮をしているのだな、とその男の腕を掴もうとしたらお爺さんとお婆さんがすんごく邪魔!
会議
まずはそのそれぞれ配ってある資料を見て頂きたい。まあ資料と言っても、一昨日のスポーツ新聞を引き破いてランダムに配布しただけなので、資料とは言えないが。
さて、今回わたしが提案したテーマ、まあテーマと言っても先程わたしがワープロで適当にキーを押して出てきた文字をプリントアウトしただけなので、
「まhぢあお しょやdこかしうあ」
の何がテーマだ、と言われてもわたしだって困る。
それでは、当イベントのメインパビリオンとなる建築物の完成予想模型を元に今回の議題を進めようと思うが、この模型、ご存知のように1/144スケールのズゴックである。昨日、わたしの孫が作ったものだ。メインパビリオンはこれとは全く違うものになる、と考えてもらいたい。
ここからは助手の安西君に手伝ってもらうが、この安西君は、先程ここに来る前に立ち寄ったゲームセンターですっかり意気投合したから連れてきただけの青年であり、このプロジェクトに関する知識は当然ない。だってお前、安西君は中学生だぞ。
では安西君、頼む。
安西「マジっすか! うっわマジ緊張するんだけど。
やるからにはさぁ、結構頑張りたいよね。分かんないけど」