町田コウの憂鬱

 どぅゆびりびんまーじっ、ふぁーふぁっふぁっふぁー、と私が今、高らかに朗らかに歌っているのは、ラヴィン・スプーンフルの「魔法を信じるかい?」であり、後半のふぁーふぁーはブラス・セクションではなくただの放屁である。

 魔法を信じるかい? ジョン・セバスチャンはこう問う。これは確かに由々しき問題、重大な命題である。この糞味噌のような世界で愉快に過ごそうと思ったら、魔法のひとつも信じんければどうにもこうにもならんよ。近年ますます糞味噌になりゆく世界の中でひとり私は思うのである。であるが、私の身の回りに魔法的なものが存在するのか、というと現在のところそのようなことはなく、また私が魔法をひり出せるのかというとそれもノー、せいぜい放屁を随意に操れる程度のものであるが、それはそれで立派な特技とも云え、であるからこのように冒頭から特技を見せつけてみたのであり、ふぁっ、ふぁー。ふぁーん。とね。要するに退屈をしているの。とりたてて労苦もなく高校受験に成功したものの、地方の平凡な公立高校に魔法使いが入学してくる可能性は極めて低いと思われる。これはあかん。えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。と入学式を迎える前からすでに絶望しきっているの。魔法使いはもちろん、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、妖怪、巨人、せむし男、陽気な黒人、体中がぬめぬめした油女、なまはげ、ロボット、柔術世界王者、その他。そのような奇異な人間或いは人外の存在する可能性が極めて少ない没個性公立高校を選んでしまった私。間違えた。嗚呼間違えた。間違えた。ふぁっふぁー、とへらへら笑いを浮かべる或る春の日、私はひとつの決心をした。

 自らが率先して奇異な行動、ふるまい、言動、表情、を、身につけ、実践することによって、こう、類は友を呼ぶ的な? そのような理屈・理論により先に挙げたような奇異な人種が自然と寄ってくるかも知らん。これは妙案、さっそく準備にとりかからねばならん、てって私は即座に行動を開始した。まず部屋にだらしなく垂れていた菓子折りを包んであった黄色いリボンを引き掴み、頭に巻いた。くんくんに縛りあげてはまた解きを繰り返すこと二時間、遂に「一見普通のリボンであるが、よく見ると理屈の分からない結び」を発明した。なかなか好調な滑り出しと云える。また「髪の結びを曜日によって変えるのはどうか」という珍奇なアイデアを思いついた段階で先程までの鬱々とした気分は嘘のように晴れ、さあ盛り上がって参りました、という意の放屁をひとつ、魔法を信じまっか、ええ、ええ、信じます。めがっさ信じておりますとも。とセバスチャンへの忠誠を誓う十字を胸の前で切り、そして入学初日、自己紹介の場で述べるべき奇人アピールを大いに盛り込んだ電波紹介文を夜なべして拵えた。ほいで入学式、当日。


「東中出身、町田コウ。ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、わたしのところに来なさい。以上」

 以来私は、この問いかけに応答した同級生と徒党を組み、ちゅて実際は宇宙人でも未来人でも超能力者でもない、魔法のひとつも使えない屑、自称変わり者、世間のムードに馴染めぬ者、顔面の破壊せられた者、妙な臭いを身体から発する者、といった実に使えねぇ、要するにつまはじき者ばかりが大集合、世間を呪い殺すような歌ばかりを歌う凶悪なパンクバンドを結成し、家畜の臓物などが飛び交う薄汚れたライヴハウスでがなる・われる・だれるなどの活躍を見せ楽しい毎日を送っております。かしこ。
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