病室

 病室のベッドから自力で起き上がることすらままならない俺に、気休めのつもりか何なのか、妻が持ってきたのは大きなメスゴリラのぬいぐるみ。ぬいぐるみにオスもメスもないが、頭部にピンク色のリボンが縫いつけてあるので、これはメスなのだろう。昔から妻は要領が悪いというのか、困った、いわゆるテンパった状態にあるとついよく分からないアクションを起こしてしまうのだが、このぬいぐるみも、退屈しているであろう俺への彼女なりのせいいっぱいの気遣いなのだろう。しかしなぜ入院患者にゴリラを。そもそも大の大人にぬいぐるみというのもなんだが、妻のやさしい気遣いをうれしく思い、枕元にこれを置いている。しかしなにしろ不自然に大きい。幼稚園児ほどの丈はあるだろうか。無駄にスペースを占有するメスゴリラ。愛嬌のある表情に看護婦も「かわいいぬいぐるみですねぇ」などと笑ってはいるが、明かに診察の邪魔ではあるし、検診のつど床に下ろすなど手間もかかる。就寝時も寝返りをうつたびに毛が当たりうっとうしい。
 しばらく気付かなかったのだが、メスゴリラの背中にはファスナーがついており、おそらくここから芯になっているウレタンや真綿を取り出したりするのだろう。が、何気なくファスナーを開け中を覗くとそこにあったのはウレタンや真綿ではなく大量の(              )