炊事

冷蔵庫から引き掴んだ
肉なのか野菜なのかもうひとつ判然とせん黒い食材を
俎板に並べ、無駄に丁寧に研いだ包丁で、捌く。
妙な汁が出るが一向に気にせん様子で
なんだったら鼻唄なども交えながらこれを微塵に、刻む。

傍らでは鉄鍋から地獄の如き煙を放ち油が煮えとる。
その地獄ん中に、
微塵に刻んだ肉なのか野菜なのか判然とせんそれと、
近所の爺が乾いた土地で営んどる
家庭菜園から引き抜いてきた菠薐草に、
少々の水で溶いた小麦粉をまぶしてから、投げ入れ。

これは俺、死んでしまうのではないだろうか
というぐらい濠濠と上がる黒煙に怯えた俺、受話器を握って。

泣きそうな時にしか実家に電話せん自分と、
咄嗟に実家のTEL番号が思い出せん自分と、
咄嗟に浮かんだ母親の顔が、母親というよりも、
限りなく赤木春恵に似とったという事実に
俺は悲しくなって。悲しくなって。悲しくなって。

こうやって俺が悲しんどる間にも油鍋は濠濠と黒煙を上げ。
肉なのか野菜なのか判然とせんそれは、
もっと意味の分からんものに変わり果て。
どうしたらええんだろうかと泣いとったら
突然警察官が上がり込んで来て。
ものっそい黒煙が上がっとるぞ君の部屋の窓からと。
謝っても謝りきれん。
もう、ただただ泣いた。赤子のように。