あとがき・2

 いやあ、参った。参った。君には到底かなわんよう。などと卑屈な笑みを浮かべながら諂うことは私にとってはまったく苦ではなく、現場が丸く収まるのであれば率先してそうやって口元を異様な角度に曲げ、えへぇ。えへぇ。そのとおりで。と媚び倒し、まったくこのような最高の君と一緒に酒を飲み且つ食らうことが出来る私というのは何たる幸せ者、ハッピーな人間であることかよう。さささ、お飲みなさい歌いなさい、と宴も最高潮に達する頃には脳の奥底に意図せず膿様のものを感じるのはこれ、なんど?

 俗に言うストレス、ちゅうやっちゃ。と説明されずともそのぐらいは分かるのであって、現に私は帰宅後部屋中の家具という家具を粉砕したのである。いかに私が平和を重んじるラスタマンであるとはいえ、低能の猿に媚び諂いするのにも限度がある。そしてこうやってこちらが精一杯の気を遣っているということにも微塵も気付かぬのが低能猿の特徴であって、いまにも爆発せんとする私の歪んだ笑顔の前で平気な顔で「だろう? 俺という人間は本当に最高の人間だよう」などとぬかし放屁するのである。吽。

 二年前にもこんなことがあった。上役の低能ぶりに我慢出来なかった私は、社長およびその部下、社内のコンピュータ経路、棚、机などをすべて破壊した。がゆえに今ではこうして昼間であるというのに働きもせず家具の破壊せられた部屋でのんびり茶を飲んでいるのである。あるが。

 こうして呆けているとさすがに脳の端から阿呆になる、と肌で察知、即座に隣家の郵便ポストから新聞を引っ張り出しこれを読んだ。と、下段に並ぶ広告のひとつが目に飛び込んできて、私は震えた。脳内革命。脳の端からレボリューションするという画期的なアイデアに私のハートはぶんぶんに高揚し、気付けばその記事を破り取り、残りは投げ捨て、書店へと向かった。既に脳内は革命を始めているらしく、滂沱たる汗が全身から吹き出してくる。ワオ。これでもう嫌味たらしい卑屈な笑顔とお別れだ。ビバ!通りへ飛び出す俺の前に速度オーバーの2トントラック。ぎゃふん。信じられない角度に曲がる、俺の顎。

春山茂雄・著『脳内革命』 あとがきより)