BOCCO No.5

「どうやら座敷ぼっこが五人居るらしいな」
 夏休みが明けたばかりの教室に集まった生徒たちの、久しぶりの笑顔を眺めながら教師がつぶやいた。
「先生、座敷ぼっこってなあに?」
 真っ黒に日焼けした顔から真っ白な歯を覗かせて、活発な生徒たちの中でももっとも元気なやんちゃ坊主、座野が小首をかしげている。
「最近の子たちは知らないだろうなあ。ぼくたちが子供だった頃は、座敷ぼっこがよく現れたものだったよ」
「今この教室に、その座敷ぼっこが居るの?」
 充実した夏休みを過ごしたのか、すっかり大人びて見える敷野が不思議な様子で教室中を見回している。初日から授業を始めるものでもなし、若い彼らに昔の話をしてやるのもいいだろう、と教師は座敷ぼっこについての話を始めた。
「友達みんなで遊んでいると、いつの間にかひとり、増えているんだ。確かにいつもの顔ぶれなのだけれども、どう数えても、明らかにひとり多いんだ。でも、そこに居るみんなが、最初からいたはずなんだ。不思議だよねえ。これはね、座敷ぼっこがひとり、こっそりまぎれこんでいるからなんだ」
 額にはじっとり汗をにじませながらも、鳥肌を立て身を縮こめる生徒たち。みんな自分は初めから居たはずだ、お前が座敷ぼっこなんじゃないかと口々に騒ぎ出す。
「しかし五人も居るってのはなあ。先生も初めてだよ」
 出席簿を確認すれば、やはり人数は五人、増えている。しかし顔ぶれは一学期と変わっていない……はずだ。机や椅子の数も人数分、きっかり揃っている。きっと座敷ぼっこがこっそりと情報を操作したのだろう。教師はもう一度、ひとりひとりの生徒たちの顔をまじまじと眺めてみる。いつもと変わらぬ、かわいい生徒たちの表情だ。

  *    *    *

 少子化が続き、すっかり生徒数の少なくなったこの田舎町の分校には、全校生徒を合わせても三十人足らずの生徒しか居ない。ひと学年に対しひとクラス、どの学年も十人と居ない、小さな小さな小学校だ。改めて生徒たち七人の表情を眺めてみる。
 確かに一学期は、この三年生のクラスには二人しか居なかった。が、今は間違いなく、七人居る。違和感だけはすごくあるのだけれど、どの生徒もまぎれもなく、最初からこの学校に居た、大事な生徒たちだ。そのはずだ。

「お前があやしいやい」
「ぼくは最初っから居るよう」
「ちっちゃな頃からみんないっしょだったじゃないかあ」
「こらこら、ぼ野、つ野、こ野。やめなさい。みんな最初からいた、私のかわいい生徒たちだよ」

 ぎらぎらとした太陽は二学期になっても相変わらず強い日差しを教室の中に差し込ませており、全開にした窓からは生暖かい風が時折ふわっと入り込む。窓の外では蝉の声がじわんじわんと鳴り響いている。
「不思議ナコトモアルモンダヨネー」
「ソウダネー」
 夏休み気分が抜けきれないのか、スティーヴは眠そうな目をこすりながらぼんやりとしている。クラス一の優等生、メアリは可愛いおでこを押さえながら、この不思議な現象について考えをめぐらせているようだ。
「リチャード先生、ソノ座敷ボッコトイウノハ……」