包丁一本

気が付けば、今俺は準決勝のリングの上に居る。
偶然インターネットで見つけた「大会概要」にはこうあった。
「素人さんは武器を『ひとつ』だけなら『なんでも』使って良い」
一風変わったバーリトゥード・ルールに勝機を見出した俺は
つい勢いで「参加申し込み」ボタンをクリックした。それが二週間前。
気が付けば、今俺は準決勝のリングの上に居る。

それはそうだ。冗談のようだが、俺は包丁片手に初戦のリングへと上がった。
有名格闘家もプロレスマニアの素人も、包丁を前にしてはさすがに無力。
何人分かの血飛沫を浴びた俺は、当然のように準決勝のリングに。

弱った。
準決勝の対戦相手、青白い顔をした二〇代半ばの青年もまた、包丁を持っている。
ふと隣に設置されたリングに目を遣る。
同時進行で行われるもうひとつの準決勝、彼らもまた、それぞれ包丁を持っている。
包丁四本。開始のゴング。